『代替医療のトリック』の中で、「鍼は効かない」と書いてある、と前回紹介しましたが、正確には「鍼の効果はプラセボにすぎない」という書き方がされています。

今日は「鍼の効果はプラセボにすぎない」と断言しちゃっていいの?という内容です。

まず、プラセボ効果とは何か?

プラセボ効果とは、偽の治療でも、患者が良い治療を受けたと思い込むことによって生じる効果の事です。単なる思い込みだけでなく、実際、身体に生理的機能変化が起きるようです。モルヒネと偽って生理食塩水を注射することでモルヒネと同様の鎮痛効果が得られることや、皮膚を切開するだけの偽の手術で狭心症の症状が改善するなどが『代替医療のトリック』の中でも、いくつか紹介されています。

純粋に治療のみの効果を測定する為には、プラセボの影響を除外する必要がありますが、そのためには次のような方法をとります。例えば薬の場合、3つの患者グループを設定して、真(本物)の薬を飲むグループ、偽の薬(効果のない薬)を飲むグループ、薬を飲まないグループで効果を比較します。真の薬のグループと偽の薬のグループの効果の差が純粋な薬の効果、偽の薬のグループと薬を飲まないグループの差がプラセボによるものと考えられます。真の薬を飲んだ場合の効果にもプラセボが含まれるので、このように偽薬のグループを設定することで、純粋に薬だけの効果を測定することが出来るのです。

ちなみに、測定者に都合の良いグループ分けにならないように、グループの割り振りは無作為に行います。

また、薬を処方される患者は真の薬か偽の薬か分からない、さらに薬を処方する医師も真の薬か偽の薬か分からない、という状態を作ります。患者にだけでなく、医師にも分からない状態を作るのは、医師の態度や仕草に影響が出て、患者が薬の真偽を見抜いてしまわないようにするためです。このように2重にブラインドをかけることを二重盲検(ダブルブラインド)と呼びます。

こういった評価方法はRCTと呼ばれており、現状で最も信頼される治療の評価とされています。鍼治療に関するRCTはヨーロッパで盛んに行われているようです。作者はRCTの結果を集めたコクランレビューというものを根拠として「鍼の効果はプラセボにすぎない」と書いています。

鍼治療についてのRCTはどのように行われているのか?

私は鍼治療に関するRCTには関わったことがありませんが(薬のRCTも勿論ありません。RCTに関わったことは一切ありませんので間違っているかもしれません。)、大体次のように行うようです。
薬と同じように3つのグループに分けます。真の鍼を受けるグループ、偽の鍼を受けるグループ、標準的な治療(通常病院で受ける治療)を受けるグループの3グループです。
3つめが「何も治療を受けないグループ」でなく、「標準的な治療を受けるグループ」であるのは、鍼治療が標準的な治療と比べて効果があるのか無いのかを知る必要があるからでしょう。

真の鍼と偽の鍼の設定は、ヨーロッパでは次のように行います。
真の鍼は、経穴(ツボ)に鍼を深く刺す方法で治療を行います。
偽の鍼は、経穴(ツボ)からずれた場所に鍼を浅く刺す方法で治療を行います。

鍼治療に関するRCTが盛んに行われているヨーロッパでは、中国式の治療方法が主流となっており、中国式を基準としてRCTも行われているようです。
中国式では、ツボは目測で決めます。体表のランドマークから○寸というツボの位置を目測で定めて、皮膚には触れずに鍼をズッキューンと数センチまで深く刺します。
ヨーロッパではこの方法が標準なので、「経穴(ツボ)に鍼を深く刺す方法」を真の鍼として、「経穴(ツボ)からずれた場所に鍼を浅く刺す方法」偽の鍼と設定しています。

しかし、日本では多くの鍼灸師が、鍼を刺す前に指で皮膚に触れて、皮膚の状態や皮下の筋肉の状態を確認して、最も効果的と思われる部位を慎重に選びます。その部位は、何処何処から○寸という経穴の定位置からずれていることも頻繁にありますし、また、経穴に関係なく筋肉・関節・神経などの解剖学的部位を目標に鍼を刺す場合も多くあります。さらに鍼を刺す深さも数ミリ程度の浅い場合もあり、また1ミリ以内の極浅の鍼治療も聞いたことがあります。

何が問題か分かりましたね。
日本の方式でいくと、皮膚に触れて刺す場所を決める時点でツボの定位置と異なる場所になれば、ヨーロッパのRCTでいう「偽の鍼」の方法と一緒です。日本の標準的な鍼治療の方法をヨーロッパのRCTでは、「偽の鍼」としているんです。

日本では「経穴の定位置からずれた位置」に「鍼を浅く刺す」場合でも効果のある方法として治療が行われているので、「経穴(ツボ)からずれた場所に鍼を浅く刺す方法」で得られた効果をプラセボとみなして比較対照するヨーロッパのRCTの考え方は成り立ちません。

日本では、以前からこの「偽の鍼」の設定方法について疑問だという意見を目にします。最近、新しい偽鍼の設定方法が開発されたようですが、少なくとも今回説明した偽鍼の設定では、正確な測定は行えないでしょう。

作者が根拠としているRCTでは、真の鍼と偽の鍼に差がないという結果から、「鍼の効果はプラセボにすぎない」という結論を出しているようですが、偽の鍼の設定方法に疑問が残る状態では、その評価を支持することはできません。

偽鍼の設定がうまく出来ていない現状では、作者の言うように「鍼の効果はプラセボにすぎない」と断言するのはどうなんでしょうね?
現段階では「RCTでは、今のところ鍼の効果はプラセボであると断言できないし、プラセボでないとも断言できない」といった所が妥当だと思います。

(つづく)

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