アトピー性皮膚炎で悩んでいる方が、鍼灸治療を検討するにあたり、「鍼灸がアトピー性皮膚炎に対してどの程度効くのか」を知る手助けになる論文があります。このページではその論文の内容を解説していきます。


【目次】

1 「成人型アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床的研究」論文の要旨

2 鍼灸治療の掻痒感と皮膚所見に対する効果

2-1 掻痒感に対する鍼灸治療の臨床的効果

2-2 皮膚所見に対する鍼灸治療の臨床的効果

3 鍼灸治療による血中好酸球数および血中IgE値の低下

3-1 好酸球数

3-2 血中IgE RIST値


1 「成人型アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床的研究」論文の要旨

アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の効果について明確に示している論文が「成人型アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床的研究」(江川雅人,明治鍼灸医学,第33号:33-49,2003)です。

この論文の要旨は以下の通りです。

成人型アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床的研究

要旨:成人型アトピー性皮膚炎45症例に対する鍼灸治療の臨床的効果を検討した。治療は、筆者らが考案したアトピー性皮膚炎の中医学的分類(風熱証、風湿証、風寒証、気血両虚証)に応じた治療、気血・臓腑弁証による治療、全身性の随伴症状に対する治療、を組み合わせて行った。皮膚所見は治療時の記録や患者の自覚的評価により判定し、掻痒感はVisual Analogue Scale(VAS)により評価した。アレルギー疾患の評価として末梢血の好酸球数とIgE RIST値を測定した。治療効果の判定は、治療開始前と治療期間終了時、治療10回、20回、30回と1年後にも行った。鍼灸治療は、平均7.6±9.9か月間(22日間~3年1か月)に平均24.0±23.3回(10回~110回)行われた。
治療の結果、皮膚所見に対する効果判定では、45例中「著明に改善」13例(28.9%)、「改善」22例(48.9%)、「不変」10例(22.2%)となった。「著明に改善」と「改善」を合わせた有効率は77.8%であった。。掻痒感は治療終了後、各治療回数時、治療1年後のいずれにおいても有意に軽減し、治療終了後の効果判定では、45例中「著明に改善」10例(22.2%)、「改善」13例(28.9%)、「軽度改善」13例(28.9%)、「不変」5例(11.1%)、「悪化」4例(8.9%)となった。「著明に改善」と「改善」を合わせた有効率は51.5%であった。血中好酸球数は治療20回以上の群において、血中IgE値は皮膚所見や掻痒感が改善した群で有意に低下した。鍼灸治療によりアトピー性皮膚炎の症状が改善し、アレルギー自体の改善も認められた。鍼灸治療は、成人型アトピー性皮膚炎の治療に有効であると考えられた。

日本でアトピー性皮膚炎に対して行った鍼灸治療の論文では、これが現段階で最も信頼性の高い内容と考えています。当院でアトピー性皮膚炎に鍼灸治療を行う場合、この論文で示されている治療方法となるべく同じ方法で行い、同水準もしくはそれ以上の治療効果を目指しています。

以下では、この論文を少し詳しく説明するために、内容を抜粋・要約しながら必要に応じて解説を加えていきます。アトピー性皮膚炎で悩んでいる方の「鍼灸がどの程度効くのか?」という疑問を解消できる根拠を示したいと考えています。少々細かい説明になることをご了承ください。

2 鍼灸治療の掻痒感と皮膚所見に対する効果

2-1 掻痒感に対する鍼灸治療の臨床的効果

(論文の内容を抜粋・要約)

痒みの強さを Visual Analogue Scale(VAS)法で評価したところ、平均75.1から34.8へと治療期間終了時に有意に低下した。

「著明に改善」「改善」「軽度改善」「不変」と4段階に分類して、「著明に改善」と「改善」を有効と判定すると、アトピー性皮膚炎の掻痒感に対する有効率は51.1%となった。

上記の4段階のうち「軽度改善」以上を示した症例が、治療10回、20回、30回と経る毎に65.0%、80.0%、83.3%と増加したことから、鍼灸治療初期に掻痒感が軽減しなかった症例でも、治療回数を重ねることによって掻痒感が軽減していくことが示された。

また、アトピー性皮膚炎は季節によって症状が変化する疾患であるため、季節的な影響を取り除くために治療開始と同じ季節である1年後の評価を行ったところ、70.0%が「軽度改善」以上、60.0%が「改善」以上を示しました。

鍼灸治療が掻痒感の軽減をもたらしたことは、病態進展の悪循環を断つ効果をもたらすこととなり、アトピー性皮膚炎の病態を改善させるきっかけになる。

統計で用いられる「有意」という用語について、有意というのは誤差や偶然ではなく明確な差があるということです。つまりここでは、痒みの変化を集計したところ、誤差や偶然でなく明確に減少していることが分かったということです。以後も「有意」という用語がたびたび出てきますので、同じような意味で考えてください。

2-2 皮膚所見に対する鍼灸治療の臨床的効果

(論文の内容を抜粋・要約)

皮膚所見は「著明に改善」「改善」「不変」の3段階に評価した。「著明に改善」と「改善」を有効と判定すると、アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の有効率は77.8%となった。

皮膚所見の改善効果が「不変」から「改善」「著明に改善」とよくなるにつれて掻痒感の軽減の程度も強かった。とくに皮膚所見が「著明に改善」と判定された症例は「改善」や「不変」の症例に比べて、掻痒感の軽減の程度が強いことが示された。

皮膚所見の有効率は77.8%ですので、掻痒感に比べて治療により満足な結果を得られるケースが多いです。

また、皮膚所見と掻痒感は一致して改善する例が多い。つまり、皮膚所見が大きく改善したケースでは掻痒感の改善度合いも大きい。つまり、鍼灸が皮膚所見だけをよくする治療ではなく、かつ、掻痒感だけをよくする治療でもない、ということが言えます。(このことは、下記の好酸球数やIgE値の内容も含めて考えると、「アトピー性皮膚炎の疾患そのものを改善している」という所まで辿り着きます。)

3 鍼灸治療による血中好酸球数および血中IgE値の低下

3-1 好酸球数

(論文の内容を抜粋・要約)

全症例をすべて平均すると、8.6±7.3(%)→7.4±5.5(%)と有意な変化はなかったが、好酸球数の低下は59.1%(44例中26例)の症例で認められた。

好酸球数は、治療10回では変化はなかったが、20回、30回では、いずれも有意に低下し、治療1年後でも有意な低下が認められた。

好酸球数の低下した症例の割合は、治療10回、20回、30回で、54.5%、61.9%、70.0%と、治療回数が増える毎に高くなり、治療1年後では80.0%となった。

鍼灸治療の回数が増える毎に、好酸球数が徐々に低下したことは、鍼灸治療によりアレルギー性の炎症が徐々に軽減したことを意味し、30回または1年間の鍼灸治療により70~80%においてアレルギー疾患としての炎症が軽減したと考えられた。

好酸球は、Ⅰ型アレルギーにおける遅延反応の際に働く免疫細胞で、アレルギー反応が繰り返して重篤なほど好酸球数の値が大きくなります。したがって、好酸球数はアトピー性皮膚炎の病勢の推移を判断するめやすと考えられています。

治療回数が多くなるほど好酸球数の改善(=値の低下)がみられることは、「皮膚所見」や「掻痒感」と同じ傾向です。

症状だけでなくアレルギー反応を表す検査数値にも変化があるということは、鍼灸が単に見た目(=皮膚所見)や症状(=痒み)を対症的に緩和させるだけでなく、疾患そのものの改善に貢献していると理解しています。

3-2 血中IgE RIST値

(論文の内容を抜粋・要約)

全症例をすべて平均すると有意な変化は認められなかったが、血中IgE値の低下は59.1%(44症例中26例)の症例で認められた。

治療10回、20回、30回の治療区分に分けても、有意な変化は認められなかったが、IgE値の低下は治療30回では70.0%、治療1年後では60.0%の症例で認められた。

IgE値の低下した症例は、治療を30回以上または1年経過した症例で増加し、治療を多く重ねた症例でアレルギー疾患としての重症度が低下する症例が増加すると考えられた。

また、IgE値の低下は、皮膚症状が「著明に改善」した症例の91.7%、掻痒感が「著明に改善」した症例の88.9%、「改善」した症例の84.6%で認められた。このことは、症状から見た臨床的な重症度が鍼灸治療によって明らかに軽減した症例においては、血中IgE値で表されるアレルギー疾患としての重症度も軽減したことが示されたものといえる。

IgEとは、免疫細胞が放出する抗体の一種です。本来、抗体は体内に侵入した異物(ウイルスや寄生虫など)を攻撃する際の武器等として使われるものですが、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患では、自分自身の体に働いてしまいます。

血中のIgE値が高くなるのはアトピー性皮膚炎の8割で見られます。またアトピー性皮膚炎の重症度とも相関するという報告もあります。

鍼灸治療を行った結果のIgE値の変化は、すでに上で書いてきた掻痒感、皮膚所見、好酸球数と同じような傾向で、治療回数を重ねるほどに低下するケースが増えていきます。

鍼灸治療により、IgE値が低下することは、好酸球のところで述べたのと同じで、鍼灸が疾患そのものの改善に貢献している可能性が高いと考えられます。

しかしながら、IgE値の変化を得るには治療回数を重なる必要があることから、アトピー性皮膚炎に対して鍼灸治療によって効果を得ようとする場合は「期間・回数がかかる」ということも予めご理解ください。

参考文献
・江川雅人.成人型アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床的研究.明治鍼灸医学.2003:35-49