血流と鍼灸 ~鍼灸は血流を改善する~

鍼灸には血流を促進する作用があります。血流促進の作用により、鍼灸で痛み・筋肉のコリ・冷えが改善したり、傷ついた組織の回復が早まると考えられています。

鍼灸治療では、症状のある患部にハリや灸をするだけでなく、患部から離れた場所にあるツボもよく使います。科学的にも「ハリや灸を施したすぐ近くの血流を促進する作用」と、「ツボから遠く離れた場所の血流を促進する作用」の2種類の作用が分かっています。

鍼灸の血流に及ぼす影響① 鍼灸を施した局所の血流が活発になる

鍼灸治療の最中、鍼を刺した周囲1~2㎝の発赤(皮膚が赤くなる)がよくみられます。さらに発赤の近くでは、治療前に固く凝っていた筋肉がフワフワに柔らかくなります。これは軸索反射による反応です。

軸索反射とは

軸索反射は以下のようにして起きる反応です。

鍼を体に刺すと、感覚神経が鍼の刺激をキャッチします。感覚神経は中枢方向(脳・脊髄に向けて)に刺激を送りますが、それと同時に枝分かれした他の分枝に神経の刺激が伝わります。すると、分枝の末端からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が放出され、近くの血管を拡張させます。

この軸索反射は、鍼を刺したすぐ周囲で起きる反応です。皮膚の発赤がみられるのと同時に、筋肉の中の血流も活発になります。鍼や灸を施した場所の痛みやコリが改善するのは、軸索反射の作用で血流が良くなり、疼痛物質や疲労物質の排出が促されたり、筋肉の血流がよくなることで筋肉に栄養や酸素が行き渡るからだと考えられています。

鍼灸の血流に及ぼす影響② 遠くのツボで血流が改善(体性自律神経反射)

※以下の内容は「自律神経と鍼灸」のページでも解説しています。

鍼灸治療では、患部から離れたツボを使って治療することが多くあります。例えば、腰や背中のコリをほぐすときに、膝の裏側にある「委中(いちゅう)」というツボをよく使います。

遠くのツボを使って筋肉がほぐれる仕組みには、動物を使った研究で「体性自律神経反射」が関わっていることが分かっています。モルモットを使った実験では、背中のツボに鍼刺激をすると、疲労したふくらはぎの筋力低下が回復します。様々な検討を加えた結果、体性自律神経反射により遠くのツボを使って血流が改善した結果であることが確認されました。

体制自律神経反射を上手に活用して治療すると、ハリを刺した直後に患部の痛みが半減したりほとんど痛みを感じなくなっていることもあります。

鍼灸治療の臨床現場では、上記のような自律神経反射の働きを利用して、様々な場所の血流を活発にして筋肉を柔らかくほぐします。

鍼灸治療と比較される治療法に各種の手技療法や電気機械療法などありますが、それらの治療法で「指が届かない」「ストレッチがかからない」「電気刺激が届かない」という治療が難しい筋肉においても、鍼灸治療であれば遠隔部のツボを上手に使って治療することが可能です。その意味で、筋肉のトラブルに対する治療として、他の治療法よりも頭一つ抜き出た治療法であると考えています。

その他の血流に及ぼす影響 ~臨床経験による個人的な見解~

上記では、鍼灸を施した局所の血流を活発にする「軸索反射」と遠くのツボを使って血流が改善する「体性自律神経反射」の2つをご紹介しましたが、鍼灸治療の臨床の中では他にも血流を改善する効果を感じることがあります。

太い血管の周囲の筋肉をほぐす

手の冷えで多い胸郭出口症候群を例に説明します。

手に血液を送る太い動脈は、その経路の途中で筋肉や骨の隙間を通っています。この動脈のそばの筋肉が固くなり、固くなった筋肉が血管を圧迫すると、手の血流が不足して冷え・しびれ・怠さを引き起こします。この状態を胸郭出口症候群といいます。

胸郭出口症候群では、手に向かう動脈を圧迫している筋肉をほぐすことで手の血流が改善して症状がなくなります。

また、足の冷えでも同じように動脈の経路上にある筋肉が固くなっている場合があります。特に多いのが内転筋という太もも内側の筋肉です。内転筋の下には足の末端に向かう大腿動脈という太い動脈があり、内転筋が硬くなることにより大腿動脈を圧迫して血流を阻害している場合があります。鍼灸で内転筋をほぐすことで足の冷えが改善することもよく経験します。

筋肉が柔らかくほぐれると冷えも改善する

筋肉が固まっている場所は、冷えていることが多いです。筋肉の中には沢山の毛細血管があり、毛細血管の中を血液が十分に流れることで、温かさが保たれています。しかし、凝って固くなった筋肉はギューっと縮んでいるので、筋肉の中の毛細血管は血流が悪くなるのではなります。このように「硬くなった筋肉の血流が滞って冷える」ということも患者さんを診ている中でよく感じます。

筋肉が硬くなっていて冷えるタイプの方では、冷えを改善しようとしてウォーキングなどの運動を始めてみたものの、いくら体を動かしても全然温まらないということもありました。筋肉が固くなりすぎると、運動をしても全身の筋肉へ十分に血液が送られないのでは、と推測しています。

こっている筋肉を鍼灸治療でほぐすと、ギューッと縮んでいた筋肉がフワーっとゆるんで中の血流も活発になり冷えが改善します。運動でなかなか温まらなかった体も鍼灸治療では温かくなり冷え症が改善する場合が多いです。温泉に入った後のように「いやー、暖まって良かったー」という感想もときどき聞きます。