不妊

鍼灸が男性・女性の不妊症に作用する仕組み

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鍼灸では科学的な研究も進んでいます。

このページでは、男性・女性の不妊症への鍼灸の作用について、ご説明します。

女性の生殖器に対する鍼灸の作用

ヒトやラットの研究で、以下のことが分かっています。

  • 子宮と卵巣には自律神経が分布
  • 自律神経が、子宮・卵巣の血流を調節
  • 自律神経が、子宮の平滑筋の収縮弛緩を調節

 

子宮には自律神経が分布し血流と平滑筋を調節している

下の図1は、子宮の血管と平滑筋に分布する自律神経とその働きを表しています。

【図1】内田さえ他:子宮の神経性調節と鍼灸.全日本鍼灸学会雑誌,49(4),p.560

図1の左側「A 子宮血流」は、子宮の血管に下腹神経と骨盤神経という自律神経が分布し、
これらの神経の活動によって、血流が増減していることを示しています。

同じ図1の右側「B 子宮内圧」は、子宮の平滑筋に前述の自律神経2種類が分布し、
自律神経の活動度合いによって、平滑筋の収縮・弛緩が生じて、子宮の内圧が変化していることを示しています。

つまり、子宮の血管・平滑筋には自律神経が分布し、その自律神経が子宮の血流と平滑筋を調節していることがわかります。

卵巣の血流は交感神経により調節される

図2は、卵巣の自律神経を示しています。

【図2】金井千恵子,花田智子,内田さえ,堀田晴美,會川義寛:ノルアドレナリンに対するラット卵巣動脈径と卵巣血流の反応.自律神経,43 p.413

ラットの血液中にノルアドレナリンを投与すると、卵巣の血管が収縮し、血流が低下する反応が現れています。

卵巣の血管は、ノルアドレナリンによって収縮しているので、交感神経の活動に反応して収縮するタイプの血管です。

つまり、卵巣の血流は交感神経により調節されていることがわかります。

 

体表の刺激による子宮と卵巣の反応

さらに、体表の刺激に対する子宮や卵巣の反応も分かっています。

  • 体表への刺激により、子宮や卵巣の血流が増加・低下する
  • 体表への刺激により、子宮の平滑筋が収縮・弛緩する

これにより、鍼や灸の体表刺激が、子宮や卵巣にどのような反応を起こすのかわかります

 

体表刺激は、子宮血流と子宮運動に変化を引き起こす

下の図3は、身体各部の表面に刺激を与えたときの、子宮血流と子宮運動の変化を表したものです。

【図3】内田さえ,志村まゆら,佐藤優子:子宮の神経性調節と鍼灸.全日本鍼灸学会雑誌,49(4),p.561,1999

体表の刺激によって子宮血流が変化することは、鍼灸による不妊治療の理論的根拠になっています。

ちなみに、体表の刺激が子宮の運動を引き起こすことは、鍼灸による逆子治療等の理論的根拠になると考えられています。

 

体表刺激により卵巣血流が変化する

図4は、体表の刺激による卵巣血流の変化を表しています。

【図4】内田さえ:鍼刺激による種々の器官の血流調節機序.鍼灸OSAKA,25(3),p.54,2009

マウスの卵巣血流を測定しながら、後足に各種の刺激を与えました。

体表刺激が卵巣の血流を変動させることが示されています。

 

これらの子宮と卵巣の反応は、体表の刺激が自律神経の活動を変化させた結果であることが確認されています。

当院の不妊症に対する鍼灸は、このような研究結果を活用し、卵巣や子宮にへの作用を考慮しながら行っています。

参考文献

内田さえ他:子宮の神経性調節と鍼灸.全日本鍼灸学会雑誌,49(4),1999
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1981/49/4/49_4_555/_article/-char/ja

金井千恵子,花田智子,内田さえ,堀田晴美,會川義寛:ノルアドレナリンに対するラット卵巣動脈径と卵巣血流の反応.自律神経,43,2006

内田さえ:鍼刺激による種々の器官の血流調節機序.鍼灸OSAKA,25(3),2009

 

当院で行う不妊症の鍼灸治療

当院では、上記のような科学的な結果を応用して、不妊症の鍼灸治療を行っています。

当院で行う不妊鍼灸は主に

  • 卵巣の血流を増やして、質の良い卵をつくる
  • 子宮の血流を増やして、着床・妊娠に適した内膜の環境を整える

という2つの目的で行います。

 

男性生殖器に対する鍼灸の作用

鍼による男性の生殖機能への作用についても報告されています。

ヒトを対象に確認された効果と、動物による基礎研究の結果があります。

 

精子の運動率に対する鍼の効果

仙骨への鍼は、精液の液状化を促して、精子の運動率を上げる

  • 仙骨部のツボに鍼を行うと、精子の運動率が上昇する
  • 運動率が上昇したのは、鍼で精液中のPSAが増えるから

健康な若年男性を対象に、中髎という仙骨にあるツボに対して、仙骨骨膜を刺激する方法で鍼を行うと、精子の運動率が上昇します。

この作用を詳しく調べるために、精液の成分を分析しました。

すると、精漿(精液の液体成分)のPSA濃度が増えた結果であることが分かりました。

PSAは、精液の粘り成分を断ち切ることで、精子を運動しやすくする働きがあります。

つまり、仙骨部に鍼をすると、精液の液状化が十分に行われ、運動率が向上するということです。

 

鍼で精液中のPSA濃度が増える仕組み

鍼で精液中のPSAが増える仕組みも分かっています。

  • 鍼による仙骨の刺激で、下腹神経の交感神経線維が活性化
  • 前立腺から精漿へ放出されるPSAが増加

PSAは前立腺から精液へ分泌される成分です。

また、前立腺には交感神経を含む下腹神経が分布します。

交感神経を遮断する薬品を投与して、鍼をおこなうと、精液中のPSAが増えません。

したがって、鍼で仙骨を刺激すると、体性内臓反射により下腹神経の交感神経線維が活動を増やして、前立腺から精漿へPSAが放出されると考えられています。

 

鍼の精子濃度への効果

ヒトに対する鍼治療で、精子濃度への効果が分かっています。

  • 健康な若年男性に対して、足のつけ根に鍼通電刺激を週1回の頻度で3ヶ月間行い、精子濃度が上昇することが確認されました。
  • 鍼通電により精巣の血流が増えることから、精巣の血流増加によって精子を作る機能が活性化したものと考えられています。
  • 鍼の刺激による精子濃度の上昇は、他の部位のツボでも報告されています。

 

鍼による勃起機能の改善

鍼による勃起機能の改善については、

  • 鍼によるED改善の報告(ヒト)
  • 鍼で勃起機能が改善する仕組み(ラット)

をご紹介します。

 

鍼治療によるED改善の報告

ヒトを対象にEDに鍼治療を行った報告があります。

鍼治療は、仙骨部の骨膜を刺激する手法で行いました。

患者26名を原因別に分けて集計したのが下図です。

北小路博司(2000)「泌尿・生殖系障害に対する鍼灸治療」西條一止・熊澤孝朗監修『鍼灸臨床の科学』医歯薬出版 pp.330

改善率は、心因性33%、内分泌性88%、静脈性100%、糖尿病性50%とあります。

従来、鍼灸の対象となるのは、機能的な勃起障害と考えられていました。

しかし、この結果から、鍼灸の対象は必ずしも機能的な勃起障害だけではないことが示唆されます。

現在、EDの分類は、器質性・機能性・混合性の3分類であり、上記報告の時期とは分類が異なりますが、

分類の違いを考慮しても、様々な原因のEDに対して鍼が有効である可能性があるといえるのではないでしょうか。

 

参考文献

北小路博司:泌尿・生殖系障害に対する鍼灸治療,西條一止・熊澤孝朗監修,『鍼灸臨床の科学』医歯薬出版,311-334,2000

 

鍼で勃起機能が改善する仕組み~薬と異なる作用~

ラットを使って、鍼で勃起機能が改善する仕組みを調べた研究があります。

仙骨部の鍼通電刺激は、Ⅳ群神経線維→上脊髄中枢→骨盤神経→海綿体神経と伝わり、海綿体の内部で一酸化窒素の放出を促すことで、海綿体内圧を増加することが分かっています。

この結果から、鍼はPDE5阻害剤(バイアグラで有名なED治療薬)とは、効果の出る仕組みが異なることがわかりました。

薬が無効なEDに対して鍼を行えば、ED改善の範囲が広がる可能性があります

 

参考文献

伊佐治景悠ほか:仙骨部への鍼通電刺激が麻酔下ラットの勃起機能に及ぼす影響.全日本鍼灸学会雑誌,66(1),14-23,2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/66/1/66_14/_article/-char/ja

 

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